時計を忘れて森へ行こう

光原百合/東京創元社

LAST UPDATED: 01/03/04




物語の舞台は、八ヶ岳の麓、JR清海線で小淵沢から少し入ったところ
にある「清海」という土地です。ここに、SEEK(The Society for
Educational Experiment in Kiyomi)という団体が存在する、という設定に
なっています。清里に関わる固有名詞が多少変えられている他は、
ほぼ現実に沿って舞台設定がされています。勿論、舞台として使用
されているだけで、物語はフィクションですし、木や建物についても、
あくまでモデルですから、現実とは少しずつ異なってはいるのですけれど。

「時計を忘れて森へ行こう」は、一応本格ミステリの範疇に
入りますが、むしろ癒しの書とするほうが合っている気がします。
殺人事件を追うものでなく、日常の中に潜む謎をそっと紐解く、
そんなジャンルの「ヒーリングミステリー」です。      
私も自分の中途半端な作風を「ノスタルジアファンタジー」と
呼んでますが、このほわほわした雰囲気を気に入って下さる
方なら、絶対合うと思いますので、お勧めします(^^)            


”「こちらで作業内容を決めてしまうと、みなさんに実感してもらえないん
ですよ。人間が動くとそれだけで何かを傷つけてしまうという痛みを。(中略)
自分のやりたいことが草の命を奪う理由にはならないと思えた人は、
森の中で立ちすくんだまま何もせず、この合宿を終えるかもしれない。
だけど、そういうひとときをもつことは無駄だと思いますか?」     
ぶんぶんと思い切り首を振った。そう、シークでいう「無駄」は世間の
「無駄」とはずいぶん違うようだ。”  (「時計を忘れて森へ行こう」P71)


「時計を忘れて森へ行こう」の中でも、キープ(シーク)で行われているプログラムに
ついて描かれています。作中で中心となるのは、それに関わる人たちが、誰かの死に
よって傷ついた心を、護さんが、「物語を織る」と言う言葉で表現される「謎解き」を
することによって、癒されていくというスタンスになっています。何も知らずに読んで
も泣けると思うんですが、実際にキープの森を知って読むと、光原さんの文章と森の
記憶とが相乗効果をもたらして、とんでもなく優しい気分になれるので、一度訪れてみて、
できればキープのキャンプを体験してみて、そして読み返してみることをお勧めします。
(いくつか抜き出させて頂きましたが、とても描写が綺麗なんです(^^) ネタバレ
になるので書き出せなかったものも多くて残念。特に第二話は今でも涙なしには
読めません。これ書くために再読して、ティッシュかなり無駄にしました(^^;))



※とりあえず、気づいた分だけ、現実と作中名称の対応表

 清里 清海
 KEEP SEEK
 ハリスホール 白銀寮
 清泉寮 清海ロッジ
 ジャージーハット ジャージーハウス
 レノックス野外礼拝場 聖クララ野外礼拝場
 (JR)小海線 清海線
 川俣渓谷 御手洗渓谷
 炉端倶楽部 ゆうゆう倶楽部





※著作権関係については調整済みです。
Thanks for Yuri Mitsuhara & Shihoko Itou

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