清里・キープの森

〜時計を忘れて森へ行こう〜

LAST UPDATED: 01/03/04


(光原百合/東京創元社)



山梨県清里といえば避暑地として有名で、駅前通りは軽井沢と同じく
「原宿をそのまま持ってきただけ」との悪評高い場所ですが、一歩駅から
入ると、東には萌木の村を中心としたミュージアムが、そして西には
清泉寮で有名な清里キープ牧場があります。この中に、KEEP−−
キープフォレスターズスクールという、環境教育実践校があります。

 
それぞれ別の牧場から見る、八ヶ岳(左)と南アルプス(右)。
中央に富士が霞んでるの見えるかな


”草原が切れるあたりに緑の森がこんもりと壁をつくっている。その向こうには
青い山並みが、幾重にも連なりながら遠くなるにつれ色を薄くしている。山並み
は打ち寄せる波のようだ。何千年、何万年をかけて打ち寄せる波。一番遠く、
抜きん出て高い波はもちろん富士山である。”(「時計を忘れて森へ行こう」P107)


このキープを舞台にした「時計を忘れて森へ行こう」(光原百合著/
東京創元社刊)という小説があります。あっちこっち
で布教しまくっているのでご存知の方も多いでしょうが(^^;)               
キープには実際に「レンジャー」と呼ばれるインタープリテーター
(自然解説案内者と訳すことが多いです)が常駐していますが、
その一人、深森護(みもりまもる)と、地元に住む高校生若杉翠
(わかすぎみどり)の心の交流を描いた優しい物語です。         
ということで、この作品を中心に置いた目で見た「キープの森」です。



キープの森にある散策路。木のチップが敷き詰めてあり、
歩くと足に心地よい。作中では、翠が護に出会った場所


キープ牧場の中には、自由に散策できる牧場、レストラン、売店、林内散策歩道
のほか、八ヶ岳自然博物館やヤマネミュージアムといった博物館、キャンプ場、
ホテル・コテージの清泉寮、教会や野外礼拝堂があります。最も近い売店まで
は駅から徒歩15分ほど。目の前に広がる牧場に座り込んで、南アルプスの上に
浮かぶ富士山を眺めながら食べるソフトクリームは絶品ですので、これは是非(^^)
今のところ、日本で一番美味しいソフトだと私は思ってます。

 
ハリスホール。作中では       ヤマネミュージアム裏のモミ。
レンジャー在住の白銀寮       作中ではクリスマスツリーに。



清泉寮には、レストランと土産ショップがありまして、土産としては、アイスクリーム
は勿論、ジャージー牛ミルク(「時計」の第3話でも活躍した瓶入りミルクで、濃くて
美味しいです)、個人的にはガレットと呼ばれるビスケットがお勧めです。ビスケット
と言っても、むしろクッキーに近い、軽いけれどしっとりしたお菓子で、美味です(^^)
向かいの牧場内にも、土産やソフトクリームのある売店があります。この牧場は、秋に
ポールラッシュ祭という収穫祭の会場になりまして、沢山のテントが並ぶのでした。
この期間だけは、清里駅からノスタルジックなボンネットバスが運行されます。

”前にもいったと思うけど、シークの牛乳はそれはおいしい。(中略)味もそれに
ふさわしくコクがあり、それでいて喉ごしは爽やかで、さすが高原の光と風が
育てたものだけあると思う。とはいえ、護さんがジャージーハウスの前で
この牛乳を買っていくといったときには、さすがに止めたくなった。
「護さん…その、大根と牛乳って取り合わせ、あんまりお見舞いには
向かないんじゃない」”       (「時計を忘れて森へ行こう」P189)




ハリスホール近くにある「護さんのミズナラ」候補木

清泉寮のある一角から北へ入ると、博物館二つとコテージに囲まれた道になります。
やがて左手に牧場が現れ、そこからは雄大な八ヶ岳山塊が目の前に飛び込んできます。
特に残雪の時期は圧巻です。その牧場の南の片隅に、何本かの大木が立っています
が、この1本が、作中で護が語りかけるというミズナラのモデルらしいです。   

”わたしは護さんの目の前に片手を差し出した。           
不思議そうに見上げる澄んだ目にほほ笑みかけて、          
「ミズナラの代わり」                       
わたしのいったようなこと、もちろん護さんにはよくわかってる。そして
放り出さないことを選んだとき、このひとはいつも、仲のいい木に勇気を
もらいに行く。白銀寮の裏にいるミズナラ、礼拝場の十字架のそばにいる
シラカバ、トレイルのわきにいるナツツバキ…。でも今は、みんなそばに
いないから。”         (「時計を忘れて森へ行こう」P246)


さらに奥へ進むと、右手にハリスホール、左手にログハウスが現れ、さらに奥は
キャンプ場になっています。このあたりがキープフォレスターズスクールの本拠地
となります。このあたりまで来ると、一般の観光客は滅多に入ってこないため、
静かです。なお、チップ歩道は、ヤマネミュージアムの裏から、森の中を抜けてこの
ハリスホールの裏まで続いています。少し道をそれた所に「ふくろうの森」と呼ばれて
いる広場があり、私の昼寝スポットなんですが、案内なしでは無理ですね(^^;)


レノックス野外礼拝場。作中では「聖クララ野外礼拝場」
「時計」2で、結婚式の会場になるはず「だった」切ない場所です。
ハリスホールの先を右手に折れた森の中にあります。


作中ではSEEK(シーク)という名で登場するKEEP FORESTERS SCHOOLは、日本における
環境教育事業の草分け的存在で、今でも毎年清里フォーラムが開催されています。
環境教育に携わる仕事をしている人なら周知の団体で、環境省を始めとして、各地
の自治体や企業からの環境研修・イベントを受託しています。私も何度か研修で
行きましたが、逆に来て頂くこともあります。(その際にはよろしく(笑)>関係各位)
そういった受託事業の他、独自に行っている「キャンプ」と呼ばれるプログラムに
ついては、直接キープのHPをどうぞ。インタープリテーション養成講座といった
硬いものから、絵や童話をかきましょう、といった軟らかいもの、森の中で作業しよう
といったものなど、プログラムは多彩です。そのどれもに共通したことが「自然の中で
楽しみながら、森の癒しを受け取りながら、自分自身や生命の尊さを再確認しよう」と
いったメッセージだと、私は解釈しています。疲れた時にふと行きたくなる場所ですね。


キープは線路の西側ですが、東側にも、ペンションや喫茶店、洒落た博物館
などがたくさんあります。中でも気に入っているのが、萌木の村の外れにある
ホールオブホールズ(オルゴール博物館)。販売用の小さなオルゴールも扱って
いますが、殆どは昔ながらの大型の、円盤を使ったオルゴールや、からくり時計、
オートマータ(自動人形)など。入館は有料ですが、1時間に一度、30分の演奏会
を開催していて、実際に動く様子を観ることができます。特に、数年前に新作
オルゴールを大量に入れてからは、休憩時間中もリクエストのあったものを
動かして下さるようになったので、3時間もいればほぼ全てのオルゴールの音色
を聴くことができます。古いものはさすがに奥にしまわれてしまっていますが、
演奏可能なものだけでも、十分すぎるほどに、懐かしい時代の不思議な気分を
味わうことができますので、半日かけてどうぞ(^^) 日本全国あちこちの
オルゴール博物館に入りましたが、ここがダントツで一番好きです。   
ここで初めて、オルゴールの音の仕組みや、からくりの動かし方の解説に
巡りあいましたが、さすがにカルチャーショックでした。       
清里を訪れた際には、特に女性は是非立ち寄ってみてください。    


参考:東京創元社HP   (財)キープ協会環境事業部HP
「時計を忘れて森へ行こう」そのものについてはこちら
「近況」中のキープについてはこちら 98年 99年 


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